今、改めて「利府トレイルプロジェクト」について

利府トレイルプロジェクトとは、宮城県利府町を舞台にして、歩いて旅ができる道(=トレイル)を住民とハイカー協働で作り上げていくプロジェクトです。当法人代表の石井が音頭をとってやり始め、今では有志によるプロジェクトチームが立ち上がるほどにまでなりました。歩く速度のようにゆっくりと進んでいるプロジェクトですが、県外から注目してくださる人もおり、一歩一歩前進している確かな手ごたえを感じています。

ハイカーの皆様へ

上記の通り、利府トレイルはトレイルの完成を目指しているトレイルです。まだ完成しておりません。それに伴い、いくつかの面でご不便をおかけしております。それでも完成を待つ前に歩いてみたいという方は、旅の計画を立てられる際、下記の点についてご理解いただければ幸いです。

ハイキングマップ

まだ正式なルートが決まっていないため、ハイキングマップがありません。代わりに、こちらで暫定ルートとして公開しているものがあります。歩く際は、こちらをご利用ください。
※ダウンロードしたデータがうまく反映されないというエラーが報告されております。その際は、同ページ上の赤字で示されているデータをお使いください。

道標

まだ利府トレイルを示す道標はなく、一般のトレイルよりも道に迷ってしまう可能性があります。歩く際は、上記のGPSデータが必須ですので、歩く前に忘れずダウンロードしていただくようお願いいたします。

道の整備

まだ道を整備する体制が整っていません。そのため季節によっては、繫茂した草木によって進路をふさがれるかもしれません。そのときは適宜迂回など検討していただくようお願いいたします。

テントサイト

利府町にはキャンプ場が一つありますが、コテージ泊専用なのでテントが張れません。そのほか、公式にテントを張れるようなところもございません。現時点においては宿泊をメインにお考えください。当法人の事務所(ハイカーズネスト)は、ご連絡いただければ無料でテントを張れますので必要あればご連絡ください。予定が合えば、歩き終わったポイントから車で迎えにまいります。

以上のように、現状歩くには問題が多いトレイルです。ハイカーの皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解いただきますようよろしくお願いいたします。

地域の皆様へ

東北の太平洋沿岸部には、青森県八戸市から福島県相馬市までを繋ぐ全長1,000kmを超える歩く道「みちのく潮風トレイル」がありますが、みちのく潮風トレイルでは、東松島市から浦戸諸島を通って塩釜市に抜けるため利府町は入っていません。そのため「トレイル」という言葉に馴染みのない人も多いでしょう。ここでは、トレイルの簡単な紹介をして、このプロジェクトがどういう意味を持つものなのかイメージしていただけたら嬉しいです。

トレイルとは旅の舞台

トレイルとは、辞書的に言えば「踏み分け道」のことを指します。最初に誰かが歩いて、それに続いて誰かが歩いた。そうやって地面を踏み固めていくうちに道になった。そういう道のことをトレイルと言います。動物が歩けば”animal trail”, 獣道です。それが少しずつ拡大して、登山道や遊歩道といった、自然の中に入る目的で人間の手が加えられた道もトレイルと呼ばれるようになりました。

1920年代、アメリカでベントン・マッカイという人が、アパラチアン山脈を舞台にして、山の峰々を繋いで歩くトレイル構想を打ち立てました。それがアパラチアントレイル、ロングトレイル(long-distance trail)が文化として発展していくはじめです。そこからトレイルには、「歩いて旅をする舞台」という意味合いが加わりました。現在使われているトレイルという言葉は、特に日本では、この意味になります。なので、本来的にはトレイルとは言えないのですが、アスファルトやコンクリートで固めた道であっても、旅の舞台として設定した場合、慣用的にトレイルと呼ぶようになっています。

利府トレイルプロジェクトとは、この歩いて旅をする舞台「トレイル」を、利府に作りましょうという試みです。東は美しいリアスの景観を持つ松島湾から西は緑豊かな県民の森へ、川の土手や田んぼのあぜ道、林道、旧街道、廃線路、部分的に舗装路も使って一筆書きで描く構想です。全部歩くには三日ぐらいかかるでしょうか。通過する街と言われていた利府が、逗留する街へと変わるきっかけとなるかもしれません。

オルレとの違い

トレイルの話をすると、よくオルレとの違いを聞かれます。どちらも歩く道として共通なため、同じものとして認識されても仕方ありません。一体、トレイルとオルレとでは何が違うのでしょうか?

発祥の違い(トレイルはアメリカ、オルレは韓国)は横に置いておくとして、私の認識では、距離の違いが目的の違いになっている(あるいはその逆)という認識です。オルレは発祥の韓国でも、オルレを取り入れた日本でも、その距離は大体10~15km前後です。15km前後というと、大体4~5時間あれば歩ける距離になります。つまり、一日完結型です。

一方、トレイルというのは、長くて数千km、短くても50kmぐらいのものを言っている節があります。一部、遊歩道がたくさん用意された湖畔や里山のような場所では「〇〇トレイルコース」などと使う例があり、この使い方だと数kmのものもありますが、「〇〇トレイル」のようにトレイル自体が固有名詞として使われると50km以上のものを指しているように思います。50kmだとよほど健脚でなければ一日では歩けません。どこかで寝泊まりするという体験が伴います。これがトレイルに旅の要素が加わる一番の要因です。一日完結型のオルレでは、日常の延長線上にある余暇を楽しむ性格が強いのに対し、トレイルは日常を離れるという性格が強くなるのが特徴的な違いなのではないかと思います。

トレイルのオルレ的使い方

オルレとの違いを話すと、オルレの方が気軽でいいじゃないかという声も聞こえてきます。たしかにトレイルには、登山ほどではないですが、ストイックな印象も受けます。それが人によってはトレイルを敬遠する一因にはなるでしょう。しかし、トレイルとは大きな舞台にすぎず、実際は小さく使うということもできるのです。

たとえば100kmのトレイルがあったとして、その100kmをどのように歩くかは自由です。テントと寝袋を担いで一気に歩くのもいいですし、10kmごと週末に歩いて完歩を目指すということもできます。あるいは自分の歩きたいところだけ歩くということもできます。100km全部を歩かないといけないというルールはないのです。そう考えたとき、旅をしたい人には旅仕様の使い方をしてもらい、日常の余暇を楽しみたい人にはオルレ的に使ってもらう、そのような自在な使い方ができるのがトレイルの良さだと思います。特に、地域に暮らす人にとっては、後者の使い方がより現実的でしょう。自分の目的にかなったやり方でトレイルハイキングを楽しんでください。

トレランじゃないの?

またトレイルというと、トレイルランニングのことを思い浮かべる人も多いでしょう。実際、トレランはとても人気で、愛好者も増えています。単にロード上を走るより、自然の中を走る方が気持ちいいですよね。

ただランニングという性格上、競技性がちらつきます。自分との闘い、相手との闘い、時間との闘い、地形との闘い、その他様々な闘いです。私はスポーツ出身なので、このような価値(?)が大切なことは重々承知ですが、この利府トレイルプロジェクトにおいては、より融和的な思想のもとで設計したいと考えています。人と人との交流、人と自然との調和、人と文化との融合、人と地域との繋がり…。もちろん一度トレイルが出来てしまえば、その歩き方は自由なので、走ったってかまいません。ただ、できるだけゆっくりと、目に見えるもの、自然の中で感じる音や匂いなど、できるだけ五感を働かせながら歩いてほしいというのが構想者の理想ではあります。

新しい観光

最後に、このように思う人がいるかもしれません。

「トレイルができたら、全国から旅をしに来る人がいるのは分かった。でも、バックパックを背負ってくるような人はたいてい一人で来るもので、それが利府にどんなメリットがあるというのか。たかがしれてるじゃないか」

おっしゃる通りです。トレイルができたからといって、100人や1000人が一気に来るようなことはありません。一人の人間が利府に滞在している間に10万円も落としてくれるということはないでしょう。

じゃあ無駄かというと、私は全然そう思いません。なにより、利府に滞在する時間人と出会う数体験としての深さが、一般的な観光とは桁違いに違います。いわゆるこれまでの観光ツーリズムというのは、バスに30人詰めて、観光名所を駆け足で回り、決められた場所で食べて寝るというモデルで、そのツアーでいくらお金を落としてもらえるかという勝負でした。

一方で、トレイルを旅するという体験は、いわゆる観光スポットと同じ目線で、これまで車で通り過ぎていたところ、見過ごしてきたところを歩くため、必然的に、より長く、より深く、地域の中に入っていく面白さが生まれます。その過程において思いがけない発見や偶然、たとえば動物との遭遇や人との出会い、文化的な気づきが起こるのです。その人にとって、そういった体験は唯一無二のもので、このような体験が深ければ深いほど、その人とこの地域の関係性が深く結ばれるのです。こうした人の体験の深さに着目した観光のあり方を私は「新しい観光」と呼んでいるのですが、こうした新しい観光の形を、このプロジェクトを通して模索しているつもりです。

「100人の人が一回だけ訪れるのではなく、
一人の人が100回訪れるたくなるような利府

そんな利府を目指してこれからも頑張っていきます。

最後に

このプロジェクトは始まったばかりです。プロジェクトに関わっているメンバーも、そうでない利府在住の人も、歩きに来るハイカーも、皆が皆それぞれを補完し合って利府トレイルを盛り上げてくれるアクティブプレイヤーです。至らないところも多々あると思いますが、寛容の気持ちとチャレンジングな気持ちで、利府トレイルを完成させていきましょう。よろしくお願いいたします。

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